今日私たちが目にする網羅的生物学研究はとかく遺伝子・タンパク質を中心に考えられがちであり、生体関連化学物質を網羅的に扱ったバイオインフォマティクス研究は未だ皆無に等しい。実際、エネルギー産生、代謝、生体系構成成分の合成・分解、生体反応系の調節・制御といった様々な生命活動には化学物質が重要な役割を果たしており、化学物質とゲノム・プロテオームとの関わり(ネットワーク)に焦点をしぼった研究の推進が、これからのポストゲノム時代のバイオインフォマティクスの一翼を担い、生命科学のさらなる発展と医療への深い貢献につながるものと予想される。そこで本研究の最終目的は、現在増加し続けるゲノム・プロテオーム情報と化学物質情報とのゲノムスケールでの融合およびそれに基づく生物学的機能知識の抽出にある。本年度の研究成果は以下の通りである。 1.反応パターン抽出アルゴリズムの開発:2つの任意の化学物質が与えられた時に、構造比較を行うことにより想定し得る反応パターンを自動抽出するアルゴリズムを開発した。 2.既知全酵素反応からの反応パターン抽出とライブラリー作成:京都大学化学研究所バイオインフォマティクスセンターが開発するKEGG/ENZYMEデータベースは現在既知の全酵素反応(約5000)が登録されている。このデータベースから、反応パターンを抽出・分類することによりライブラリーを作成を完了した。 3.各基質分子の化学構造に対応する遺伝子(酵素)ライブラリー作成:現在ゲノム配列が決定されている全生物種の配列データとしてKEGG/GENESデータベースを使用し、これらの配列のリガンド結合部位に着目した配列解析を行うことにより、化学構造-酵素(遺伝子)群の対応ライブラリーを作成を行った。
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