個体は分化した特有の機能を持った様々な細胞から構成されおり、そのゲノム配列は基本的にはすべての細胞において同一である。個々の細胞が特有の遺伝子発現をするためには、エピジェネティクスによる制御が重要となる。そして、エピジェネティクス制御異常はがんなどの疾病の原因となる。本課題においては、エピジェネティクス制御因子の生物学的役割の解明とがん化に対する影響を明らかにすることを目的に、以下の3点を中心に行った。 1)酵母サイレンシングに関与するヒストンアセチル化酵素(HAT)複合体サブユニット関連因子の解析 酵母サイレンシングに関与するHATであるSAS複合体と相互作用するクロマチン形成因子Asf1に結合する因子をGSTとの融合タンパク質を用いることにより精製した。そのタンパク質を質量分析により同定し、クロマチン修飾因子複合体のサブユニットのひとつであることを明らかにした。 2)SAS複合体の哺乳類ホモログHB01複合体機能解析 Mycエピトープタグを付加したHB01をヒト培養細胞に発現させ、抗Myc抗体を用いた免疫沈降産物にヒストンアセチル化酵素活性があることを明らかにした。また、推定上のアセチルCoA結合部位変異体の免疫沈降物はHAT活性を示さず、アセチルCoA結合部位がHAT活性に必要であることが示された。 3)エピジェネティクス制御因子の発がん過程における発現の変化 肝がんの腫瘍マーカーであるグルタチオントランスフェラーゼ(GSTP)陽性細胞におけるエピジェネティクス制御因子の発現変化を解析した。その結果、調べたHATの中でMOZ(monocytic leukemia zinc finger protein)のみ発現上昇が検出された。MOZ cDNAを単離・解析し、MOZがGSTPプロモーター活性に影響を与えることを示した。
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