蛋白質において、アスパラギンやアスパラギン酸残基は、異性化やラセミ化を非常に起こしやすく、その劣化に伴いL-イソアスパラギン酸(IsoAsp)およびD-アスパラギン酸(D-Asp)が生じることが知られている。本研究では、蛋白質中のアスパラギンやアスパラギン酸残基の異性化ないしラセミ化が細胞内の蛋白質機能に及ぼす影響に関して、その修復酵素であるprotein L-isoaspartate/D-aspartate O-methyltransferase(PIMT)の発現抑制細胞を作製し、それを用いることにより解析を行った。その結果、PIMT発現抑制株においてEGF刺激によるMEKおよびその下流であるERKのリン酸化の亢進および持続が認められた。そこで次に、MEKの上流であるRafのリン酸化について解析を行ったところ、同様にPIMT発現抑制株においてリン酸化の亢進が認められた。現在は、EGFシグナル伝達系に異常亢進が生じるメカニズムの解明に向け、更なる解析を行っている。 また、細胞内のPIMT活性を測定する系の開発も試みた。酵素反応条件およびHPLCの溶出条件を種々検討した結果、蛍光ラベルしたisoAsp含有ペプチドおよびそのメチル化体を分離検出する簡便なアッセイ系の確立に成功した。さらに、細胞抽出液を用いた実験においても、簡単な前処理を行うことにより、PIMT活性が測定できることを確認した。本系は全工程を含めて1時間以内で終了し、簡便かつ有用なアッセイ系であると考えられる。
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