種々のヒト胃ガン細胞株を抗ガン剤アドリアマイシンで処理すると、アポトーシスを起こす細胞株とアポトーシスが起きずアドリアマイシンに耐性な細胞株がある。さらに、アポトーシスが起きる細胞について肝細胞増殖因子(HGF)あるいは上皮増殖因子(EGF)で前処理すると、アドリアマイシンに対して耐性になることが解った。この知見は、抗ガン剤耐性獲得の一つの機構として増殖因子が惹起する生存シグナルが関与し、ガンの化学療法を成功させるにはこの生存シグナルを制御する方法の開発か重要であることを示している。私は、増殖因子受容体から惹起される生存シグナルの伝達を阻害し、アドリアマイシンに対する感受性を高める抗体を見つける目的で以下の実験を行った。EGF存在下である種の胃ガン細胞株がアドリアマイシン耐性になることを利用して、EGF受容体を認識する抗体がアドリアマイシンに対する感受性におよぼす影響を調べた。その結果、あるEGF受容体の細胞外領域を認識する抗体BがEGFと同様、ヒト胃ガン細胞株をアドリアマイシンに対して耐性にすることが解った。そこで、この耐性機構を調べると、アドリアマイシンが誘導するミトコンドリアからのチトクロームcの遊離が抗体Bの添加により抑制され、アポトーシス実行分子カスパーゼの活性化が抑制され、その結果アポトーシスが抑制されることが解った。現在、この抗体BがEGF受容体に結合後、どのような機構を介してミトコンドリアからのチトクロームcの遊離抑制に至るかについて検討中である。また、ファージ提示型ヒト型一本鎖抗体ライブラリーを利用して、EGF及びHGF受容体に対するヒト型一本鎖抗体を作製し、EGF及びHGF刺激によりアドリアマイシンに対して耐性になる細胞株を用い、作製した一本鎖抗体がアドリアマイシンに対する感受性を高めるかについて検討している。
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