インテグリン裏打ちタンパク質の一つであるパキシリンはインテグリン刺激によって最もチロシンリン酸化されるタンパク質の一つであり、これまでの知見からパキシリンのチロシンリン酸化が細胞運動に深く関与していることが分かっている。本研究では、パキシリンが癌転移抑制剤の標的タンパク質になると考え、その三次元構造を明らかにし、癌転移治療薬開発に重要な情報を提供することを目的としている。 パキシリンの構造は大きく二つの構造からなる。すなわち、N末端部分はチロシンリン酸化部位および5つのLDモチーフから構成され、C末端部分は4つのLIMドメインから構成されている。パキシリンのチロシンリン酸化部位は、Tyr31/Tyr118およびTyr40/Tyr181はN末端部位に含まれており、パキシリンのN末端部位のGST融合パキシリンをバキュロウイルス発現系にて作製し立体構造解析のための結晶化を試み、微結晶を得た。また、Tyr31/Tyr118あるいはTyr40/Tyr181についてリン酸化を受けないPheに変異させたパキシリンをバキュロウイルス発現系にてタンパク質を作製し、mgオーダーで純度95%のタンパク質を得ることに成功した。Pheに変異させたパキシリンをSrcなどキナーゼ作用させ、in vitroにおけるパキシリンのリン酸化を行い、リン酸化パキシリンをイオン交換クロマトグラフィーで分離後、マススペクトロメトリーにてリン酸化の確認を行い、パキシリンがTyr31/Tyr118あるいはTyr40/Tyr181のみがリン酸化されていることを確認した。また、これらの変異パキシリンの微結晶を得ることにも成功した。これまで、パキシリンを含むパキシリンファミリーについて、高純度かつ高濃度の精製に成功した例はない。本課題でのパキシリン発現・精製技術の確立によって、今後のパキシリンファミリーの三次元立体構造研究のための技術提供に大きく寄与した。
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