研究概要 |
P-糖タンパク質は脂質のフリッパーゼであり、また抗ガン剤の細胞外への排除のポンプである。P-糖タンパク質の活性の亢進による多剤耐性ガン細胞の出現はガン治療における大きな壁になっている。糖脂質合成阻害剤であるD-threo-1-phenyl-2-decanoylamino-3-morpholino-1-propanol(D-PDMP)はP-糖タンパク質の活性を阻害することにより多剤耐性細胞を抗ガン剤感受性にすることが知られているが、そのメカニズムはわかっていない。私はこのD-PDMPが細胞内に取り込まれた後、エンドソーム・リソソームで、エンドソーム特異的脂質であるリゾビスホスファチジン酸(LBPA)の膜構造をpH依存的に変化させることを見出した。LBPAは細胞にとりこまれた低密度リポタンパク質(LDL)の分解に重要な役割を果たしている。D-PDMP処理した細胞ではLDLの分解が低下し、コレステロールエステルの細胞への蓄積、細胞表面のコレステロール濃度の低下を引き起こした。細胞表面のコレステロールの低下はP-糖タンパク質活性の低下を引き起こし、その結果多剤耐性細胞での抗ガン剤の排除の速度は低下した。われわれの研究によりD-PDMPは細胞のコレステロール代謝を変化させることによりP-糖タンパク質の活性を制御していること、またこの活性はD-PDMPの糖脂質合成活性とは無関係であることが示された(Makino et al. Biochemistry, in press(2006))。
|