脂肪滴はほぼ全ての体細胞に認められるオルガネラで、中性脂質貯蔵・膜脂質代謝・エネルギー産生などに密接に関与すると考えられているがその形成過程については不明な点が多い。医学薬学的見地からも脂肪滴は肥満・脂肪肝等の本因であり、その形成メカニズムを知ることは、これらに付随した病態の解析・治療に有用である。そこで、本研究は体細胞変異株を用い細胞内脂肪滴の形成メカニズムに重要な因子ついて明らかにすることを目的としている。本年度(平成17年度)は平成16年度に樹立した脂肪滴の形成不全細胞株LDD-1の性状解析を行い、欠損遺伝子の同定を行った。具体的には以下である。様々な放射標識中性脂質前駆体(各種脂肪酸、コレステロール、酢酸等)を用い代謝標識実験を行い、産物の同定からLDD-1株は脂肪酸生合成が完全に欠損していることが明らかとなった。脂肪酸生合成に関わる生合成酵素の試験管内活性を検討した結果、LDD-1株は細胞質アセチルCoAカルボキシラーゼ活性が完全に欠損していることがわかった。実際にLDD-1株ではこの活性をになうアセチルCoAカルボキシラーゼ1分子に変異部位が存在することも確認された。LDD-1株は脂肪滴形成に対しsemi-recessive表現型を示し、野生型アセチルCoAカルボキシラーゼ1分子をLDD-1株に発現させると、アセチルCoAカルボキシラーゼ活性の回復とともに、脂肪滴形成も回復することが確認された。これらの結果から、アセチルCoAカルボキシラーゼ1分子が、高等動物細胞(CHO細胞)における細胞内脂肪滴形成に必須の役割を果たしていることを示すことができた。
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