1.アルブミン分子モデルの構築とその検証 ヒト血清アルブミン(HSA)の立体構造をPDBより入手し(PDBID:1A06)、箱状に水分子を付加したHSA-水分子複合体モデルを構築した(総原子数:87223)。得られたモデルに対し、周期境界条件下でPME法により5nsの分子動力学(MD)計算を実行した。この際、実空間切断距離(カットオフ値)が8、12、15Åの条件で行った。カットオフ値が8ÅのMDでは、2.5ns以降でX線結晶構造からのRMSDおよび回転半径がほぼ一定の値に達し、モデル系が緩和したことが確認された。一方、他のカットオフ条件(12、15Å)では5nsの時点で回転半径に上昇傾向がみられ、系が緩和するまでに更なる計算が必要と考えられた。また、いずれのカットオフ値の場合においてもHSA分子全体の挙動に極端な相違はみられなかった。水素結合に関しては、各計算条件で水素結合の形成のしかたに相違が見られ、現時点ではMDデータを原子レベルルで解釈するのは困難と判断した。計算時間と計算精度の兼ね合いから、これ以降のHSA-水分子-リガンド複合体モデルにおけるMD計算では、カットオフ値が8ÅのMD計算(PME法)を実行することに決定した。[第42回日本生物物理学会年会にて発表(2004年12月、京都)] 2.脂肪酸が付加したHSA分子モデルの作成 血中においてHSAは脂肪酸と結合している。そこで、脂肪酸が結合した状態のHSAにおいてMD計算を実行し、脂肪酸が結合していない場合との比較を行った。脂肪酸(ミリスチン酸)5分子が結合したHSAの立体構造をPDBより入手し(PDBID:1BJ5)、1と同様にHSA-水分子複合体モデルを構築した(総原子数:99126)。ミリスチン酸の原子電荷をGaussian03によりHF/6-31G(d)基底系を用いて計算した。MD計算は上記1に従い、5nsのシミュレーションを実行した。2.5ns以降でX線結晶構造からのRMSDおよび回転半径は一定に達した。2.5-5.0nsの座標データに基づいて各残基の揺らぎ(RMSF)を算出したところ、HSAの薬物結合部位(特にSiteI)ではRMSFが非常に小さいという特徴が観察された。SiteIでの分子揺らぎは脂肪酸の結合により若干増加した。主成分分析により分子内運動を比較すると、HSA分子全体の運動は脂肪酸の付加により大きく異なったが、薬物結合部位SiteIだけに着目すると、脂肪酸の有無によらず分子内運動が類似していることが観察され、SiteIへの薬物結合には脂肪酸はそれほど影響を及ぼさないものと考えられた。[第125回日本薬学会年会にて発表(2005年3月、東京)]
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