研究概要 |
ビタミンDレセプター(VDR)は,内在性リガンドである活性型ビタミンDとの複合体形成により,特定の遺伝子転写を活性化する.活性型ビタミンDに代表されるアゴニストは,ビタミンDレセプターを介する遺伝子発現に対して「正」のスイッチではたらく一方で,ビタミンD・A環構造を基盤に化学修飾を加えた低分子が,受容体タンパクに対してどのような構造変化をもたらすのかは未だ不明である.我々は,ほとんど検討されていなかったビタミンD・A環に注目し,誘導体のデザイン・合成研究を行ってきた.とりわけ,ビタミンD・A環2α位にメチル基導入した誘導体は親化合物の4倍のビタミンDレセプター結合能を示すが,その2位エピマーは親化合物の8分の1の結合能に低下するという重要なデータを得ている.本研究では,A環2α位方向への官能基化の重要性,及びA環近傍のキャビティと活性発現の関係を詳細に検討するため,2位に2つの置換基を有するアナログ,さらには2位にスピロ環を有する新規誘導体をデザインし,その効率よい合成を検討した. 新規誘導体の合成は,鎖状のA環部エンイン前駆体と,側鎖部を含むCD環部を,別々に合成して後に連結する収束的方法にて行った.2位にスピロ環構造を有するアナログのA環部エンイン前駆体は,マロン酸ジエチルを出発原料に,対応するα,ω-ジブロモ体と反応させて,望みの環構造を構築した.すなわち,2位スピロ環部は3員環,4員環,5員環,6員環とし,A環上の2つの水酸基に関して可能なすべてのジアステレオマー4種ずつを合成した.一方,CD環部は文献既知の方法にて,コレカルシフェロールをオゾン分解後,ルテニウム触媒の存在下25位に相当する水酸基を導入し,Wittig反応にてプロモオレフィンを良好な収率で得た.パラジウム触媒の存在下,A環部前駆体とCD環部をカップリングし,ビタミンD特有のトリエン部分を構築した.すべての誘導体は逆相リサイクルHPLCにて精製し,構造解析,及び生物活性評価に供した. ビタミンD誘導体A環部上1位3位水酸基の立体化学は,改良Mosher法にて決定した.結果,2位スピロ環構造の大きさにより適用範囲が限られることが明らかとなった.一方,プロトン核磁気共鳴スペクトルの解析により,A環コンフォメーションはスピロ環部分の大きさにほとんど影響を受けないことが示唆された.これらのデータをもとに,カーボン核磁気共鳴スペクトルを詳細に解析し,4級である2位炭素の構造情報を得る実験が進行中である.新規誘導体の生物活性評価として,ウシ胸腺ビタミンDレセプター結合能を検討したところ,2位にfuseした環の大きさによって,結合能が大きく変化することが明らかとなった.
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