研究概要 |
ビタミンD受容体(VDR)は,内在性リガンドとの複合体形成により,特定の遺伝子転写を活性化するリガンド結合依存的転写因子である.活性型ビタミンDに代表されるVDRアゴニストは,VDRを介する転写発現に対して「正」のスイッチとしてはたらくことが知られる.一方,ビタミンD構造を基盤とし化学修飾を加えた低分子が,高分子タンパク受容体の構造変化をどのように引き起こし,遺伝子転写を制御するのかは不明である.近年,VDRの「A環」付近に,ω-loop構造を有する,VDR特異的なキャビティの存在が明らかとなった.複数のサブタイプの存在するレチノイン酸の場合と異なり,活性型ビタミンDの関わる受容体は単一であることから,その機能が注目されている.そこで「A環」近傍のキャビティに相対するリガンド側の構造修飾が,受容体結合能だけでなく転写発現に与える影響を詳細に検討し,受容体タンパク機能を調節する低分子・モジュレータの創製を念頭に本研究に着手した. 新規誘導体の合成は,鎖状のA環部エンイン前駆体と側鎖部を含むCD環部を,別々に合成して後に連結する収束的方法により行った.前年度に合成の完了した,活性型ビタミンDのA環2位スピロ誘導体に関しては,受容体タンパクとの相互作用に重要なA環配座に関する検討を進めた.スピロ誘導体の配座解析はプロトン核磁気共鳴スペクトルを用いる方法が一般的であるが,注目すべき2位炭素が4級となるため,HMBCを用いた方法を併用した.結果,A環コンフォメーションはスピロ環部分の大きさにほとんど影響を受けないことが示唆された.さらに,25位水酸基近傍の空間に嵩高い基を導入することで受容体に対するアンタゴニズムが発揮されたように,A環1位,及び3位水酸基近傍におけるスピロ環構造が遺伝子転写機能を「負」に制御できるのかを転写活性化試験にて検討した.2位スピロ誘導体のウシ胸腺ビタミンDレセプター結合能を検討したところ,2位にfuseした環の大きさによって,結合能が大きく変化することが明らかとなった.一方,ラット骨芽細胞細胞を用いたオステオカルシン産生能はVDR結合能にほとんどよらず,低親和性の誘導体においても高活性が認められた.2位近傍の修飾はレセプタータンパクとリガンドの複合体の安定性に大きく寄与し,転写活性化を持続させる可能性があることが示唆された.
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