本研究では、生体異物による毒性発現分子機構におけるCYP1ファミリーの役割を解明することを目的とする。 1.BaP誘導毒性におけるCyp1ファミリー酵素の役割 Cyp1a1、Cyp1a2、及びCyp1b1遺伝子欠損マウス、さらにCyp1a1/1b1、Cyp1a2/1b1ダブル遺伝子欠損マウスにBaPを経口投与し検討を行った結果、肝臓と小腸において誘導されるCYP1A1がBaPの代謝活性化ではなく解毒に重要であることが明らかになった。一方、脾臓や骨髄におけるCYP1B1は、CYP1A1非存在下でBaPの代謝活性化を引き起こし、免疫障害をもたらした。また、CYP1A2はBaPの解毒、代謝活性化に何ら関与しなかった。生体内の異物代謝において、薬物代謝酵素の組織特異的な発現パターン、代謝経路が重要であることが示された。現在、組織特異的Cyp1遺伝子欠損マウスの作成を進めている。 2.Cyp1遺伝子欠損マウスにおけるBaPの胎児への影響 Cyp1a1ホモ欠損マウスにおける妊娠期のBaPの毒性は着床期に高い感受性を示したが、Cyp1a1ヘテロ欠損マウスでは観察されなかった。Cyp1a1ホモ欠損マウスの胎児の脳、肝臓、腸におけるBaP-DNA付加体はCyp1a1ヘテロ欠損マウスの胎児に比し有意に高値であった。興味深いことにCyp1a1ホモ欠損マウスにおける胎児の肝臓においてCyp1a1ホモ欠損の胎児ではCyp1a2、Cyp1a1ヘテロ欠損の胎児ではCyp1a1の強発現が観察された。現在、Cyp1a2、及びCyp1b1遺伝子欠損マウスについての検討を進めている。 3.Cyp1a1/1a2ダブル遺伝子欠損マウスの作成 Cyp1a1/1a2ダブル遺伝子欠損マウスは発生期、成長期において明らかな表現系の相違は観察されなかった。現在、Cyp1a1/1a2/1b1トリプル遺伝子欠損マウスの作成を試みている。
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