研究概要 |
臭素化難燃剤成分について,それらを「1.フェノール性水酸基を有する化合物群」と「2.それ以外の化合物群」の二つにわけ,それぞれ異なるアプローチによる分析法の構築を試みる。今年度は特に,国内での使用量の最も多いテトラブロモビスフェノールA (TBBPA)を対象化合物として「1」についての検討を行い,以下の成果を得た。 (1)エキシマー蛍光誘導体化-HPLC分析 TBBPAが分子内に二箇所のフェノール性水酸基を有していることに着目し,ピレン試薬を用いるエキシマー蛍光誘導体化を行った。いくつかのピレン試薬を用いてエキシマー蛍光発現の効率等を精査し,更に反応条件や分離条件を最適化することで,TBBPA標準物質として注入量当たりフェムトモルレベルの高感度分析が達成された。また,本誘導体化法は多種多様なモノフェノール類の妨害を受けない極めて選択的な分析法であった。本システムは高感度,高選択的な割には安価な装置構成である。 この方法を用いてヒト血中TBBPA濃度の測定を試みたところ,ブランク血清中TBBPAは検出できなかったが,ブランク血清に添加した極微量のTBBPAを定量することが可能であった。 (2)LC-MS/MS分析 誘導体化しない分析法として,TBBPAのセミミクロLC-MS/MS分析を行った。標準物質を用いて各種分析条件を最適化したところ,エレクトロスプレーイオン化・ネガティブイオン検出により,注入量当たりサブフェムトモルレベルの超高感度分析が達成された。 この方法を用いて,日本人男性のヒト血中TBBPA濃度を測定したところ,添加血清試料だけでなく,ブランク血清中のTBBPA定量も可能であった。その定量値は欧米人の値とほぼ同程度であった。 以上,臭素化難燃剤成分であるTBBPAに対する極めて有用な分析法二種を構築することができた。いずれも優れた特徴を有しており,多種の実試料分析への応用が望まれる。
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