プロドラッグの代謝に関して、ヒト肝サイトゾル画分(Cy)に存在する新規薬物代謝酵素を同定し、その特徴を明らかにすることを目的としてin vitroにおける検討を行った。 5-フルオロウラシルのプロドラッグである抗癌薬のカペシタビンについて検討した。カペシタビンはまず、5'-deoxy-5-fluorocytidine(DFCR)に代謝されるが、この代謝はヒト肝ミクロソーム画分(Ms)に存在するカルボキシルエステラーゼ(CES)が関与すると報告されているが、Cyでも代謝されることを明らかにした。速度論的解析を行ったところ、固有クリアランス値はMsではCyの5倍であった。肝におけるタンパク量を考慮した場合、ヒトにおいてMsはCyの1/5であるため、カペシタビンからDFCRへの代謝反応の寄与はMsとCyでほぼ同程度であることを明らかにした。 次に、カペシタビンからDFCRの生成に関与するCyの薬物代謝酵素を同定するため、硫安分画、Sephacryl S-300ゲル濾過カラム、Mono P HR chromatofocusing、Superdex 200ゲル濾過カラムにより分離し、アミノ酸部分配列分析を行った。その結果、精製酵素はCESの一分子種であるCES1A1のprecursorであった。CES1A1 precursorはN-末のシグナルペプチド以外はCES1A1と同じ配列であるため、N-末のシグナルペプチドを確認するためにEdman分解を行った。その結果、シグナルペプチドを有していなかったため、精製酵素はCES1A1であることが明らかになった。これまでMsに存在すると考えられてきたCESがCyにも存在し、プロドラッグの代謝に重要な役割を果たしていることを明らかにした。
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