遺伝子治療を目的として、塩基性リポソームやポリマーを遺伝子キャリアーとして用いる手法が精力的に研究されている。しかし、その多くが培養細胞を対象にした実験で、その結果は動物を対象にしたin vivoの結果にそのまま反映していないケースが非常に多い。もう一度、遺伝子キャリアー分子構造と遺伝子デリバリー効率について基礎的な視点から根本的に見直す必要がある。そこで、本研究では代表的な遺伝子キャリアーとして直鎖状ポリリジンとデンドリティック構造をもつポリリジンに注目し、それらを比較した。デンドリティックポリリジンはDNAとほぼ中性の複合体を形成するがリニアポリリジンはカチオン性の複合体を形成した。また、いずれの場合も時間が経過するにつれてそのサイズは数マイクロメーターまで大きくなった。一方、血清存在下においては、その複合体の成長は抑えられ、血清成分が複合体間の相互作用を低減させたものを考えられる。複合体に吸着しているタンパク質成分をSDS-PAGEで分析した結果、デンドリティック構造とリニア構造の場合でアルブミンやカーボニックアンヒドラーゼと推測されるタンパク質が同様に検出された。一方で、血清存在下で培養細胞にトランスフェクションするとデンドリティックなものがリニアと比べて100倍程度の高遺伝子発現を示した。蛍光顕微鏡観察により、細胞内への取り込み量には違いは見られなかったことから、細胞質へあるいは核への細胞内での移行効率に違いがあるものを考えられる。この複合体をマウス尾静脈から投与した結果、デンドリティック構造を持つポリリジンの血中滞留性はリニアポリリジンに比較して長かった。複合体のゼータポテンシャルの違いがその理由と考えられるが、複合体に吸着する血清タンパク質成分に大きな違いは見られないため、吸着物質量の正確な定量も含め、さらに詳細な構造・活性相関研究が必要であろう。
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