現在、遺伝子治療を目的として、塩基性リボソームやポリマーを遺伝子キャリアーとして用いる手法が精力的に研究されている。しかし、その多くがin vivoにおいて、有効に機能しているとは言い難い。そこで本研究ではいくつかの遺伝子キャリアーを例に挙げ、DNA複合体の静脈から全身投与後の血清成分との相互作用、そして、体内動態、細胞内でのタンパク質との相互作用を総合的に評価した。遺伝子キャリアーとしてデンドリティックポリリジンを使い、そのDNA複合体をマウス尾静脈から投与すると、数時間の血中滞留性を示したが、ポリエチレングリコール(PEG)修飾を行うと、さらにステルス性が向上することがわかった。また、培養細胞を対象にした実験においても、PEG修飾によりトランスフェクション効率は大きく減少することがわかった。しかし、PEG鎖の末端にRGDペプチド(腫瘍組織へのターゲティングリガンド)や腫瘍細胞表面に現れるフォスファチジルセリンに選択的に結合するペプチドで修飾することにより、腫瘍細胞内へのトランスフェクション効率が大幅に向上することがわかった。一方、細胞内において、DNAキャリアー複合体が相互作用するタンパク質の同定も行った。その結果、アクチンやアデノシルメチオニン合成酵素、アルギノコハク酸合成酵素などがその候補として同定され、その結合量は遺伝子キャリアーの種類によって異なることがわかった。これら細胞内で相互作用するタンパク質が細胞内でのDNAの挙動に大きな影響を与えると考えられる。細胞外でのステルス性、標的化、細胞内への取り込みと核への輸送を総合的にコントロールする遺伝子キャリアーシステムの構築が重要であることがわかった。
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