コレステロールの消化管からの吸収には特異的な輸送担体の関与が考えられているが、その吸収メカニズムについては未だ不明な点が多い。最近、中枢性の脂質蓄積症であるC型Niemann-Pick病の原因遺伝子であるNPC1と高い相同性を有するNPC1L1が同定され、この遺伝子がコードする蛋白質は小腸の刷子縁膜に存在することが示され、さらに、この遺伝子をknock-outしたマウスでは顕著なコレステロール吸収の低下が観察されている。このことは、NPC1L1遺伝子が消化管でのコレステロールに関与することを示唆している。そこで我々はヒトNPC1L1遺伝子をクローニングし、この遺伝子の発現系を作成し、NPC1L1によるコレステロール輸送機構について検討を行った。まず、この蛋白質の細胞内局在を検討するため、蛍光性蛋白質であるGFPをNPC1L1蛋白質のC末端に融合させたGFP-NPC1L1を作成し、HBK293細胞に発現させた結果、その細胞内局在は細胞内小胞であることが示された。In vivoではNPC1L1蛋白質の発現が小腸の刷子縁膜に認められることから、NPC1L1蛋白質の細胞膜への輸送には何らかの他の蛋白質が関与していると推察される。そこで、NPC1L1の部分アミノ酸配列と相互作用する蛋白質を同定するため、現在、Yeast Two-hybrid法によるスクリーニングを行っているところである。 一方、細胞膜にソーティングされたNPC1L1はコレステロールの輸送活性を有すると考え、強制的な細胞膜への局在化による影響について検討を行った。一般に、小腸や腎臓などの刷子縁膜に局在する蛋白質の一部はそのC末端に4アミノ酸残基からなる特異な配列を有し、この配列を介してPDZ-K1やNHERFなどの裏打ち蛋白質と複合体を形成することにより刷子縁膜へ局在化することが知られている。そこでNPC1L1のC末端にPDZ-K1と相互作用する配列を導入したNPC1L1変異体を作成し、この変異体とPDZ-K1をHEK293細胞に発現させ、コレステロールの細胞内への輸送を評価した結果、有意なコレステロールの細胞内への蓄積が認められた。一方、変異体のみではその輸送活性が認められなかった。これらの結果より、NPC1L1はコレステロールの輸送担体であり、その活性の発現にはNPC1L1の局在化調節機構が重要であることが示唆された。この輸送の詳細な機構については現在解析中である。
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