研究概要 |
【目的】腫瘍細胞ではなく,腫瘍組織部位の血管内皮細胞を標的とした新規癌免疫療法の有効性を検討した.本法の利点として以下の3点が挙げられる.1)腫瘍組織内の細胞構成は,血管内皮細胞:癌細胞が約1:約100であることから,1つの内皮細胞の死は100個の癌細胞死が誘導されることが考えられ,極めて効率が良い.2)血管新生部位は主に腫瘍部位に限られるため,副作用が低い.3)癌細胞から影響を受けた血管内皮細胞であり,それらは共通の抗原を発現していると考えられ,種々の癌種に適応可能である.そこで樹状細胞(DC)を用いた癌免疫療法として,腫瘍組織血管内皮細胞を抗原として樹状細胞にパルスし,その抗腫瘍効果を検討した. 【方法】ヒト臍帯静脈由来,ウシ大動脈由来またはマウス肝類洞由来の血管内皮細胞を,マウス黒色腫B16細胞の馴らし培地を用いて培養したものを腫瘍組織内皮細胞(TEC)のモデルとして用いた.TECをDCにパルスし,マウス皮内投与1週間後,B16細胞を尾静脈注射した.一定期間後,肺に転移したB16のコロニー数を計測した. 【結果・考察】TECをパルスしたDCの投与により,コントロール群と比較してB16の肺転移数が顕著に抑制された.しかし,DCのみ,または通常の培地で培養した血管内皮細胞をパルスしたDC投与群には有意な抗腫瘍効果は認められなかった.本結果より,癌細胞の馴らし培地で培養することによる腫瘍組織血管内皮細胞の特異抗原が発現していることが推察された.またCTL assayにより,B16ではなくTECに対するCTLが誘導されていることが明らかとなった.さらに皮下包埋チャンバー法により,腫瘍細胞誘導の血管新生が阻害された.以上のことから,本療法の作用点は腫瘍の誘導した血管であり,腫瘍組織血管内皮細胞を抗原とした癌免疫療法の有効性が示唆された.
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