薬物代謝阻害に基づく薬物間相互作用の程度は、一般に、薬物の血中濃度-時間曲線下面積(AUC)の上昇率で示される。薬物が特定の酵素による代謝のみで消失し、その酵素が可逆的に阻害される場合、AUCの上昇率は、酵素の阻害定数(Ki値)と阻害剤(併用薬)の濃度とから見積もることができる。この阻害剤濃度として循環血中濃度のみを用いるとAUC上昇率は過小評価される場合が多く、経口投与後初期に消化管から肝臓に流入する濃度を考慮して算出した肝臓入口における濃度を用いる必要性が示されている。しかし、肝臓入口における濃度を用いた場合、相互作用が生じるのに生じないと予測してしまうfalse negativeな予測は避けられるものの、false positiveな予測が多く生じることが明らかとなった。この原因の一つとして、多くの場合に薬物の消失経路が単一ではないことが挙げられる。そこでまず、消失経路全体の中で阻害を受ける酵素によって代謝される割合(fm)がAUC上昇率の予測値に及ぼす影響をシミュレーションにより検討したところ、fmが1より少しでも小さくなると、予測値は大きく変化することが明らかとなった。次に、遺伝多型が報告されている酵素であるCYP2D6で代謝される薬物について、extensive metaboliserとpoor metaboliserにおけるAUCの比からCYP2D6に関するfmを算出した。その値を用いて上述のAUC上昇率を再計算した結果、多くの薬物について実測値と予測値は近い値となった。すなわち、fmを考慮することによりAUC上昇率の過大評価を避けることが可能であり、相互作用の予測性が向上することが明らかとなった。
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