多くの癌細胞においては、葉酸結合蛋白質が過剰発現し、葉酸の取り込みが高いことが報告されている。このことから、葉酸修飾した製剤は、癌標的製剤として望ましいと考えられる。本研究では、非ウイルス性の前立腺癌標的遺伝子治療用ベクターとして、安全性の高い脂質成分からなる葉酸修飾した新規な遺伝子ベクターを開発し(特許出願中)、この葉酸修飾遺伝子ベクターが血清存在下においても癌細胞に高い遺伝子導入効率を示すことを明らかにした。さらに前立腺癌特異的に遺伝子発現を誘導するために、前立腺癌特異的遺伝子プロモーターを用いた前立腺癌治療用プラスミドも開発した。治療用プラスミドは、ヒトゲノムを鋳型としてPCR法により、前立腺特異的膜抗原(PSMA)のエンハンサー、プロモーター領域をクローニングし、その下流にヘルペスウイルス由来のチミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子を挿入して調製した。またHSV-tk遺伝子との併用により、広範囲の癌細胞の細胞死を誘導する(バイスタンダー効果)ことが出来るコネキシンの遺伝子を挿入したプラスミドも調製した。そして前立腺癌培養細胞(LNCaP細胞、PC-3細胞)に、葉酸修飾遺伝子ベクターを用いて自殺遺伝子治療を行ったところ、前立腺癌特異的に高い細胞死を誘導することが出来た。さらに前立腺癌を移植した担癌マウスにおいても、葉酸修飾遺伝子ベクターを用いて治療用遺伝子を直接固形癌に投与することにより、固形癌の増殖抑制、延命率の増大が観察された。この葉酸修飾遺伝子ベクターは、前立腺癌以外にも扁平上皮癌細胞(KB細胞)等の癌細胞においても高い遺伝子導入効率を示し、自殺遺伝子治療において高い癌増殖抑制効果を示すことも明らかにした。
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