本研究では精子幹細胞をレトロウイルスに感染させて標識し、その仔のDNAに対しウイルス由来遺伝子をプローブとしたサザンプロットを行うことにより、ウイルス感染した幹細胞由来の仔を同定し、この解析をホストマウス由来の全ての子孫について行い、比較することで最終的に精子幹細胞の寿命、動態パターンの算出を試みる。 本年度の研究では以下の実験により、精子幹細胞のレトロウイルス感染の最適化を行い、レトロウイルスに感染した精子幹細胞由来の仔を産生するホストマウスの作成に成功した。 1)生後5-10日目の精原細胞を豊富む含むマウス精巣より、トリプシン処理により精巣のsingle cell suspensionを得た。これからalpha 6-integrin(幹細胞マーカー)陽性、c-kit(分化細胞マーカー)陰性の細胞集団をセルソーターを用いて分離することにより、濃縮した精子幹細胞集団を得た、 2)LacZを発現するレトロウイルスをtransient transfectionにてBOSC細胞へ遺伝子導入を行い、2-3日後にウイルス粒子を回収し、polybrene存在下に1)の細胞集団を試験管内で2-5日にわたり感染を行った。 3)精子幹細胞移植法にて、レトロウイルスに感染した幹細胞を精子の先天的に欠損したWマウスの精巣へと移植した。移植後3ヶ月でホストの精巣のLacZ染色を行ったところ、感染した精子幹細胞由来のコロニーが認められた。その数をカウントし、レトロウイルスの感染効率を判定したところ、6穴プレート1ウェルあたり1x10^6の細胞濃度で、1日のインキュベーション期間、濃縮したウイルスを用いた条件が最適であることが分かった。 4)3)で最も効率が良かったプロトコールにて幹細胞移植を行い、ホストマウスを作成した。これを野生型の雌マウスと交配を行い、生まれてきた仔の尻尾DNAを採取、LacZ遺伝子をプローブとしてサザンブロットを行い、導入ウイルスを検出した。その結果、20匹のホストマウスのうち9匹について感染した精子幹細胞由来の仔が生まれることが分かった。
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