研究概要 |
MAPK、特にERKの活性化は蛋白質のリン酸化といった早期における神経系の可塑的変化だけではなく、遺伝子発現レベルでの制御といったlong termにおける可塑的変化にも関与している。一方、神経栄養因子の一つであるBDNFは脊髄後根神経節(DRG)において産生された後、順行性に脊髄後角に運ばれ、痛み受容線維の神経伝達修飾物質として働いている。BDNFはDRGでは通常trkAを有する小型ニューロンに発現しているが、末梢炎症では小型ニューロン,完全軸索切断では大型ニューロンでの発現が増加するようになる。我々はこれまでに様々な慢性痛モデルを用いて、一次知覚ニューロンにおけるBDNF遺伝子発現の変化と慢性疼痛との関連を追及してきた。まずMAPKの一つであるERKの活性化が,BDNFを遺伝子発現レベルで調節し、末梢炎症や完全軸索切断に起因する慢性疼痛の病態に関与していることを明らかにした。またこれらの変化がそれぞれNGFのpositive、negative regulationによって生じていることが分かった。さらに部分的軸索損傷モデルである神経因性疼痛モデルの傷害DRGニューロンにおいてはERK、p38、及びJNK全ての活性化がみられるが、非傷害DRGニューロンにおいてはp38のみ活性化されることを見出した。特に、非傷害DRGニューロンにおけるp38の活性化はBDNFの発現上昇を介した熱性痛覚過敏に関与していることが分かった。このようにDRGニューロンにおけるBDNFは様々な病的状況下において、異なった細胞内シグナル伝達によってその発現を調節されており、この発現変化が慢性痛の発生に関与していることが明らかになった。これらの成果はJ.Neurosis.、Eur.J.Neurosis.やPain等、数多くの国際誌に発表した。
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