重炭酸イオン輸送に役割を果たすKチャネルの分子基盤を明らかにするため、膵臓導管細胞に機能発現するKチャネルの電気生理学的同定を試みた。ラット膵臓からコラゲナーゼ処理により導管細胞新鮮分離標本を作製し、パッチクランプ法を用いてホールセル電流を測定した。細胞内Ca^<2+>濃度を100 nM以下とした膜電位固定下で、内向き整流性電流が観察された。この電流は細胞外K^+濃度依存性にコンダクタンスが増加し、その逆転電位はK^+選択性ポアーを想定した値に近い関係を示した。内向き整流性K電流の一価陽イオン透過性及びコンダクタンスの順位はK^+=Rb^+>>Na^+>NMDG^+とK^+>Rb^+>Na^+>NMDG^+であった。内向き整流性K電流は細胞外のBa^<2+> (1 mM)により抑制された。これらの性質は重炭酸イオン分泌上皮である反芻動物耳下腺腺房細胞に存在する内向き整流性Kチャネル(Kir)のものと類似していた。この結果をもとに膵臓導管細胞に発現するKir分子のクローニングを試みた。ラット膵臓からmRNAを抽出し、Kirファミリーで保存されているK^+選択性ポアー領域(H5領域)をコードする遺伝子配列をプライマーとした3'RACE法で、約3.5 kbpの増幅産物が得られた。この産物はKirファミリーのいずれか、あるいは新規のKir分子の可能性がある。膵臓導管細胞にはKirが機能発現し、上皮細胞のKirは静止膜電位の維持に寄与すること、さらに重炭酸イオン輸送に役割を果たす可能性が示唆された。
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