1)a.胸部大動脈血管内皮細胞において、糖尿病発症後10週間経過した動物におけるインスリン慢性投与は、糖尿病時に変化していた遺伝子43個の中で20個のmRNA遺伝子発現を正常化した。また、この改善しない23遺伝子の内12個の遺伝子は、インスリン濃度によって変化するインスリン感受性遺伝子であった。この事から、この12個の遺伝子は、血中のグルコース値(STZ-誘発性高血糖)や血中インスリン値(慢性的なインスリン処置)によって制御されている可能性を示す。これらのことから、高血糖値と高インスリン値は共に、糖尿病性血管合併症の発展に重要である事の裏付けになるだろう。b.糖尿病ラットより摘出した大動脈血管の器官培養法によって、インスリンやIGF-1処置は、血管収縮の増加を生じる。この作用機序として、内皮細胞からの持続的なTXA_2産生増加が関与している事を見いだした。更に、この影響は、糖尿病に観察されるIGF-1受容体の発現増加が関与している事を示唆した。我々の実験結果は、糖尿病などによって生じるインスリン値の上昇による血管合併症において、TXA_2阻害薬の投与が有効である可能性を強く示唆するものである。2)a.STZ糖尿病ラット腸間膜動脈床において、内皮細胞由来過分極因子の作用の減弱が生じるが、ホスホジエステラーゼ3阻害薬であるシロスタゾールの慢性投与は、protein kinase Aの活性(catalytic subunit、regulatory subunit protein発現の改善による)を改善し、この弛緩反応を改善した。b.STZ糖尿病ラット腸間膜動脈床において、アデニレートシクラーゼ(AC)を介する弛緩反応が減弱していることを見いだした。この減弱には、AC5/6の活性低下、タンパク、mRNA発現の低下によることを見いだした。以上1)ab、2)abの研究結果より、糖尿病時(高血糖、高インスリン)の血管においては、いくつかの遺伝子発現の異常が認められ、この発現異常によって、血管内皮細胞機能異常、血管内皮依存性の収縮異常が生じることを明らかにした。
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