肥満細胞由来キマーゼは、Angiotensin II (Ang II)の産生を介して血管新生を亢進する。本研究では実験的血管新生モデルだけでなく、より臨床に近い病態モデルでの血管新生におけるキマーゼの関与を検討した。 ハムスター膵臓癌細胞株(Hap-T1)を用いて膵臓癌同所性移植モデルを作成し、キマーゼ阻害薬(SUN-8257)による腫瘍抑制効果を検討した。膵臓癌組織の境界部にはキマーゼ陽性細胞が認められたが、キマーゼ阻害薬による腫瘍抑制効果は認められなかった。腫瘍血管新生におけるキマーゼの関与は、癌細胞増殖因子や他の血管新生因子を凌駕しうるものではない事が示唆された。 キマーゼはAng IIだけでなく、幾つかの生理活性物質を活性化することが報告されている。血管新生の重要な因子であるmatrix metalloproteinase (MMP)-2に対するキマーゼの作用を検討したところ、キマーゼはproMMP-2を活性化することが明らかとなった(平成16年度実績)。そこでキマーゼは、Ang IIだけでなくMMP-2の活性化を介した血管新生促進作用を有するかについて、ハムスター下肢虚血モデルを用いて検討した。精製キマーゼを虚血部位に投与したところ、MMP-2の活性化を通じて血流の改善を伴う血管新生が誘導された(平成17年度実績)。近年、固形腫瘍や糖尿病性網膜症のような血管新生を抑制することによる治療だけでなく、虚血性疾患に対して血管新生を促進することによる治療方法も模索されている。キマーゼもまた、虚血性疾患での治療的血管新生療法の一つとなりうることが期待される。
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