研究概要 |
小脳プルキンエ細胞におけるシナプス伝達効率の長期抑圧現象は,高次脳機能の一つである運動学習の基礎過程であると考えられており、この現象には細胞内Ca^<2+>濃度の上昇が重要であることが知られている。我々は先に膵ランゲルハンス島β細胞のインスリン分泌機構について研究し、「CD38-サイクリックADPリボース情報伝達系」という新たな細胞内Ca^<2+>動員系を提唱した。これは代謝酵素CD38により生成されたサイクリックADPリボースが、細胞内Ca^2プールである小胞体上に局在するFKBP12.6(免疫抑制剤FK506の細胞内結合蛋白質)に結合し小胞体からのCa^<2+>放出を起こしてインスリン分泌を誘導するものである。我々は小脳にも同情報伝達系が存在することを明らかにしている。本研究では同情報伝達系構成因子のノックアウトマウス(CD38やFKBP12.6等)を用いて、長期抑圧現象さらにマウス個体の運動学習能における「CD38-サイクリックADPリボース情報伝達系」の生理機能を解明する。 平成16年度は当初の計画通り研究を遂行し以下の結果を得た。 1、CD38ノックアウトマウス小脳のサイクリックADPリボース量は野生型の1/4に低下していた。 2、小脳スライスをカフェイン処理した後、脱分極電気刺激に対する細胞内Ca^<2+>動態を2光子顕微鏡で解析すると、CD38ノックアウトマウスのプルキンエ細胞樹状突起部でCa^<2+>応答が著明に減弱していた。 3、プルキンエ細胞に入力する平行線維と登上線維を同時刺激することにより誘発される平行線維-プルキンエ細胞間のシナプス長期抑圧現象が、CD38ノックアウトマウスでは消失していた。 以上より、CD38ノックアウトマウスの小脳ではサイクリックADPリボース量が減少し、シナプスが豊富に存在するプルキンエ細胞樹状突起部でのCa^<2+>動態に異常(主として細胞内プールからのCa^<2+>放出異常)が生じた為に長期抑圧現象が消失した可能性が考えられた。
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