申請者は、ポリ(ADP-リボース)分解酵素(PARG)の遺伝子破壊ショウジョウバエを作成しPARG変異体が進行性の神経変性を起こすことを報告した(Hanai et al.2004 PNAS)。 PARG変異体の神経細胞には大量のポリ(ADP-リボース)が蓄積しており、電子顕微鏡による観察では均一な大きさの顆粒状の蓄積物が認められた。金コロイドで標識した抗ポリ(ADP-リボース)抗体を用いた免疫電子顕微鏡では、金コロイドの局在は主に顆粒状の蓄積物と重なっていたので、顆粒状の物体はポリ(ADP-リボース)ポリマー自体か、もしくは、ポリ(ADP-リボシル)化された標的タンパク質であると考えられる。PARG変異体を大量に調整し、ポリ(ADP-リボシル)化されたタンパク質の同定を進め、いくつかの候補が得られつつある。 また、PARG変異体の全身では、抗ポリ(ADP-リボース)抗体は脳および胸部神経節に顕著に反応したが、その他の部分では顕著ではなかった。中枢神経系のみにポリ(ADP-リボース)が蓄積する原因を明らかにするために、ショウジョウバエの頭部と体部でのポリ(ADP-リボース)分解活性を測定した。野生型では頭部と体部ともに分解活性があったが、PARG変異体の頭部には分解活性が無く、体部に認められた。阻害剤を用いて検討した結果、PARG変異体の体部におけるポリ(ADP-リボース)分解はホフホジエステラーゼ活性によると示唆された。 植物ではPARG変異体が多くの遺伝子発現の概日振動に重要であることが示されたが、動物ではポリ(ADP-リボシル)化と体内時計の関連は未知であった。PARG変異体および、PARG、PARP過剰発現変異体を用いて概日行動リズムを測定したところ、活動リズムには野生型と有意差は見られなかった。 PARG変異体の生存に影響する遺伝子変異の検索では幾つかの候補遺伝子が得られつつある。また、或る重要な癌抑制遺伝子のポリ(ADP-リボシル)化部位を特定する事に成功し、細胞分裂機構の制御におけるポリ(ADP-リボース)の重要性を明らかにした(投稿中)。
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