N型糖鎖は、タンパクの構造や可塑性、親水性を変化させ、その機能を修飾することが明らかとなっているが、シグナル分子における役割はいまだ明確ではない。本研究ではモデルの糖タンパクとしてErbBファミリーを選び、その二量体形成におけるN型糖鎖の役割を検討した。EGFRでは、そのドメインIIIの糖鎖のうち、Asn420に付加する糖鎖を失うとリガンド非依存性に二量体を形成することがわかっている。ドメインIIIの構造がEGFRと比較的似ているErbB3で、EGFRのAsn420に相当するAsn418をGlnに変えN型糖鎖の付加部位を欠失させると、やはりリガンド非依存性に二量体を形成することがわかった。このN418Q変異ErbB3をErbB2と共発現させた細胞では、Erkのリン酸化が著明に上昇し、ErbB3ホモ二量体のみならずErbB2-ErbB3のヘテロ二量体形成も増加することがわかった。さらに、この下流のシグナルの増強により足場非依存性の増殖能を獲得すること、ヌードマウスにおける腫瘍形成能が著しく上昇することが明らかとなった。一方、ErbB2においてはドメインIIIにN型糖鎖の付加部位は存在しないが、EGFRのAsn420、ErbB3のAsn418に相当する部位に糖鎖の付加部位を導入したG449N変異ErbB2では、リガンド非依存性の二量体形成が減少することがわかった。ErbB2の立体構造は、EGFRやErbB3にリガンドが結合したときの構造に近いことが報告されている。今後、EGFRやErbB3ではドメインIIIの糖鎖を除くとリガンドが結合したときと近い立体構造をとること、またErbB2ではドメインIIIの糖鎖がないことがリガンド非依存性の二量体形成や細胞の増殖能といった癌原性を示す原因になっていることを証明したい。
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