これまでの解析から転写因子Bach2遺伝子ノックアウトマウスにB細胞分化成熟過程の障害があることを見いだしていた。また、血清中の抗体価を測定した結果IgMクラスの抗体が正常マウスの5倍に増加するのに対して、クラススイッチで生じるアイソタイプ抗体は減少することを見いだしていた。これらを踏まえて本研究では、Bach2ノックアウトマウスにおける免疫応答の障害を解析した。T細胞依存的抗原としてNP-CGGまたは非依存的免疫抗原としてNP-Ficollをマウスに投与して免疫応答を惹起したが、抗体のクラススイッチは誘導されなかった。また、脾臓B細胞の初代培養系においてもIgM応答が正常であるのに対して、アイソタイプ抗体は誘導されなかった。さらに、Bach2ノックアウトマウスでは羊赤血球を投与しても胚中心が形成されず、NPハプテン特異的な体細胞突然変異も抗体重鎖遺伝子へ導入されなかった。以上の結果からBach2はB細胞の活性化応答においても重要な役割を担っていることが明らかになった。Bach2ノックアウトマウスで発現の変化した遺伝子を調べたところ、RNA改編酵素類似因子AIDの発現が低下していた。Bach2ノックアウトB細胞へレトロウィルスの系を用いてAIDを発現させて救済実験を行ったが、クラススイッチは救済できなかった。また、転写因子Blimp-1およびXBP-1の発現が亢進していることを明らかにした(Nature 2004)。これらの転写因子がBach2の標的遺伝子であるかを引き続き解析中である。
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