本研究の目的は、脊髄におけるプロスタグランジン(PG)F合成酵素PGFSIとPGFSIIの生理的意義を、生体内での酵素連関や受容体との関係を探ることにより解明することである。平成16年度の研究成果から、PGFS Iが神経細胞体と樹状突起においてPGF_<2α>受容体FPと共存すること。一方のPGF IIは神経要素とは異なる中心管周囲の上衣細胞とタニサイトに局在し、受容体との共存関係を示さないことが明らかとなった。このように、脊髄神経細胞においては、PGFS Iが生合成するPGF_<2α>がオートクライン反応で作用していることが考えられた。そこで、本年度は、ラットの脊髄損傷モデルを用いて、損傷後の神経の変性や再生過程におけるPGFS IとFPの発現動態について、生化学的、形態学的に解析を行った。ウエスタンブロットやRT-PCRで蛋白質あるいはmRNAレベルの発現量の変化を調べたところ、神経変性の指標として用いた細胞骨格要素であるmicrotubule-associated protein(MAP)2の発現量の変化よりも非常に早い段階でPGFS Iの発現は低下し、一方のFPの発現は上昇した。PGFS IとFPの反対の相関関係は、ネガティブフィードバックの効果によるものかもしれず、この点については、現在検討を行っている。さらに、免疫組織化学的な解析からも、生化学的なデータを裏付ける所見が得られた。形態学的には、損傷後の影響は灰白質において顕著に観察され、PGFS IとFP陽性の神経樹状突起の伸展が著しく低下していた。このように、脊髄の神経変性において、PGFS IあるいはFPが関与することが示唆された。その詳細を明らかにするために行った脊髄神経細胞の初代培養系や脊髄損傷モデルにおいて、PGF_<2α>やアンタゴニストの添加による影響についても所見を得ている。
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