研究概要 |
アナンダミドをはじめとする長鎖脂肪酸のエタノールアミド(N-アシルエタノールアミン,NAE)は,虚血脳や心筋梗塞などの病変部位で著増し,鎮痛や抗炎症などの多彩な生体作用を発揮する脂質メディエーターである。NAEの生体内レベルの調節に関与する加水分解酵素としては,中性からアルカリ性で働く脂肪酸アミド加水分解酵素の研究が先行している。一方,同様の反応をもっぱら酸性条件で触媒するアイソザイム(N-アシルエタノールアミン水解酸性アミダーゼ,NAAA)についての解析は遅れている。本研究ではNAAAの機能の解明を目指し,本年度において以下の成果を得た。 1.NAAAの遺伝子クローニングを行い,推定アミノ酸配列から,NAAAが脂肪酸アミド加水分解酵素とは相同性を持たないが,酸性セラミダーゼとアミノ酸レベルで33-34%の相同性を持つ新規酵素であることが明らかとなった。また,(1)組換え体のNAAAにもごく弱いセラミド水解活性が認められること,(2)酸性セラミダーゼがセラミドだけでなくNAEをも水解することを見出し,両酵素が機能的にも類似性を持つことを明らかにした。 2.リコンビナント酵素の性状解析を行い,NAAAが糖タンパクであり,酸性条件下で低分子量型にプロセシングされることを見出した。また,蛍光タンパク質との融合タンパク質を哺乳類の細胞に発現させたところ,リソソーム様の局在を示し,NAAAがリソソーム酵素であることが裏付けられた。 3.NAAAの生理的役割を解析する上で有用なツールとなる選択的阻害剤N-Cyclohexanecarbonylpentadecylamineを開発した。50%阻害濃度は4.5μMであり,アイソザイムである脂肪酸アミド加水分解酵素は100μMでも阻害されなかった。
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