ミトコンドリアはATP産生を司り生体内のエネルギー代謝の中心的な役割を行っている。また、アポトーシスを制御及び実行し、老化や様々な神経疾患にも関与している。このように多くの機能を持つため、ミトコンドリアは様々な分野の研究者から注目されているオルガネラである。ミトコンドリアの形状や数は細胞の種類によって様々であり、同じ細胞でも常に分裂と融合を繰り返しダイナミックに変化する。さらに、外界からの刺激(運動や食事)やミトコンドリア内からの異常(ミトコンドリア病)に応答してミトコンドリアは増殖する。 本課題では、ミトコンドリア内からの異常のモデルとしてミトコンドリアDNA消失細胞を用い、この細胞で発現が増加している因子として同定したMIDAS (mitochondrial DNA absence sensing factor)の解析を行った。MIDAS発現ベクター、MIDAS siRNA発現ベクターを用いて、MIDAS発現増加細胞、MIDAS発現減少細胞を作製した。ミトコンドリアを染色してフローサイトメーターで解析したところ、MIDAS量がミトコンドリア量と関連していることが示された。共焦点レーザー顕微鏡を用いてミトコンドリアの立体画像を作製したところ、MIDASによってミトコンドリアの体積が変化することが示された。ミトコンドリアが異常なとき膨張することが知られているが、電子顕微鏡により観察するとその形態は正常であることから、正常なミトコンドリアの量が増えたことがわかった。さらに、ミトコンドリアDNA、RNA、タンパク質、脂質の解析から、MIDASによってミトコンドリア脂質の量が変化していることが示された。以上の結果から、MIDASは、ミトコンドリア量、特にミトコンドリア膜を形成する脂質の量を調節している因子であることが明らかとなった。
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