我々は最近、リン脂質分解酵素のPhospholipase D1 (PLD1)が色素細胞の重要な機能であるメラニン色素生合成(メラノジェネシス)の制御分子として作用する可能性を見出している(K.Ohguchi et al. J.Biol.Chem. 2004)。本年度は、メラノジェネシス制御シグナリングにおけるPLD1の関与を明確にするために更なる分子機構解析を行った。 マウスB16メラノーマ細胞をメラノサイト刺激ホルモン(α-MSH)で分化誘導すると、メラノジェネシスの増大に伴ってPLD1の発現量が著しく低下することが分かった。また、B16メラノーマ細胞のPLD1発現をRNA interference (RNAi)を用いてノックダウンしたところ、メラノジェネシスが誘導されることが明らかとなった。PLD1ノックダウンによるメラノジェネシスの亢進は、tyrosinaseをはじめとするメラニン生合成に必要な酵素群の発現量(mRNAおよびタンパク質)の上昇と相関することが確認された。また、PLDの働きにより産生されるボスファチジン酸(PA)のターゲット分子としてmammlian target of rapamycin (mTOR)が知られているが、B16メラノーマ細胞においてPLD1遺伝子をノックダウンすると、mTOR活性が低下することが分かった。B16メラノーマ細胞にmTORの選択的阻害剤rapamycinを添加するとメラノジェネシスが誘導されたが、その作用はPLD1遺伝子を過剰発現させることにより減弱した。 以上の結果から、PLD1はmTORシグナリングを介しメラノジェネシスをネガティブに制御している可能性が示唆された(K.Ohguchi et.al. J.Cell.Physiol. in press)。
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