本研究で我々は、まずIkarosのセリン・スレオニンのリン酸化が細胞周期G1期からS期への移行を制御すること、すなわち、G1期からS期への移行期において、Ikaros内のセリン・スレオニンはリン酸化され、その結果IkarosがDNAから解離することを発見した。DNAに結合できない変異IkarosではG1期停止を誘導しないこと、一方でセリン・スレオニンのリン酸化が起こらない変異IkarosではG1期停止が増強することから、Ikarosはセリン・スレオニンの脱リン酸化によってDNAと結合し、細胞周期G1チェックポイントを制御すると考えられる。 セリン・スレオニンのリン酸化が細胞周期G1期からS期への移行を制御するというIkarosの性質は、がん抑制遺伝子Rbと似通った性質であることから、RbとIkarosとの関連を検討した。その結果、RbはIkarosと結合すること、またIkarosの過剰発現によって誘導されるアポトーシスがRbの機能を阻害するアデノウイルスタンパクE1Aによって抑制されることが明らかになった。以上のことは生理的条件下でIkarosがRbと複合体を形成し、細胞周期G1期からS期への移行ならびにアポトーシスの誘導に関わっていることを示唆している。これまでIkarosはMi-2/NuRD複合体と結合し、Mi-2/NuRD複合体を構成するヒストン脱アセチル化酵素を介して標的遺伝子の転写を抑制すると考えられてきた。ところがヒストン脱アセチル化酵素阻害剤トリコスタチンA存在下でもIkarosの過剰発現によるG1期停止は誘導できることから、Ikarosによる細胞周期の制御にはMi-2/NuRD複合体とは異なる新規Ikaros複合体によって担われることが示唆される。そこで現在我々は、リンパ球細胞株DT40細胞を用いたシステムの導入し、Ikaros複合体の分離同定を試みている
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