研究概要 |
PLCεは、ras癌遺伝子産物Ras蛋白質とその類縁のRap蛋白質によって制御をうけるホスホリパーゼである。PLCεノックアウトマウスが、7,12-ジメチルベンズアントラセン(DMBA)をイニシエーターに、12-O-テトラデカノイルホルボール-12-アセテート(TPA)をプロモーターに用いた皮膚二段階化学発癌に耐性を示す機構の解析を行った。ノックアウトマウスを用いた解析から、TPA処理過程で生じる皮膚過形成におけるPLCεの関与を明らかにした(Bai, Y., et al., Cancer Res, 2004)。さらに、このマウスでは、TPA処理によって誘発される炎症反応とケラチノサイトの上皮成長因子受容体(EGFR)のリン酸化の顕著な抑制が認められ、これらが二段階発癌に対するPLCεノックアウトマウスの抵抗性に関与する可能性が示唆された。また、分子機構の解明を目的として、ノックアウトマウス由来のケラチノサイトと線維芽細胞を初代培養し、解析した。その結果、ノックアウトマウス由来のこれらの細胞は、種々の増殖因子によって誘導される細胞増殖において、野生型の細胞と比較して顕著な差が認められなかった。これらの結果は、二段階発癌において、細胞/細胞間の相互作用を介するシグナルへのPLCεの関与を示唆するものである。また、ヒトの癌におけるPLCεの関与を調べる目的で、ヒト癌細胞株におけるPLCεの発現をリアルタイムRT-PCR法と特異抗体を用いたウェスタンブロット法により解析し、その発現を確認した。さらに、PLCεがEGFRの下流で骨形成因子(BMP)-Smad1/5/8シグナル系に対して拮抗的に働く可能性を、PLCεノックアウトマウスで観察される心半月弁の過形成の機構の解析から示した(Tadano, M., et al., Mol.Cell.Biol.,2005)。
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