研究課題
エンドカンナビノイドとして知られるアナンダミドが動物組織の膜リン脂質のホスファチジルエタノールアミン(PE)からN-アシルPEを経て作られることは知られていたが、反応に関与する酵素の実体はこれまで不明であった。本年度は、N-アシルPEからアナンダミドを含むN-アシルエタノールアミンを遊離するホスホリパーゼ(PL)D型酵素(NAPE-PLD)をラット心臓のミクロソーム画分から高度に精製し、精製酵素の部分アミノ酸配列を決定し、データベースを用いて、マウス、ラット、およびヒトの同酵素のcDNAを同定した。酵素の推定アミノ酸配列は既知のPLDとはホモロジーを示さず、β-lactamase fold familyに分類された。COS-7細胞で発現させたリコンビナント酵素は、N-アラキドノイルPE(アナンダミドの前駆体)を含む種々のN-アシルPEに対し、同程度の加水分解活性を示した。一方、PEおよびホスファチジルコリンには作用せず、既知のPLDで認められるホスファチジル基転移反応を触媒しなかった。また、組換え酵素安定発現細胞株で内因性のN-アシルPE含量の低下を認めた。同酵素はマウスの脳・精巣・腎臓をはじめとする広範な臓器で検出された。以上の結果から、N-アシルPEからアナンダミドを含むN-アシルエタノールアミンを遊離するNAPE-PLDは、構造的にも機能的にも既知のPLDとは異なる新規酵素であることが証明された。また特異的酵素の存在により、N-アシルPEとアナンダミドを含むN-アシルエタノールアミンが生理的に重要な役割を持つことが示唆された。
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