本研究の目的は、膵臓及び甲状腺で発現しているHERV遺伝子(HERVE1)の生体内での機能を明らかにすることである。しかし、この目的の前提として、膵臓または甲状腺におけるERVE1タンパクの存在が必要不可欠である。前年度までに作製を終了したERVE1ポリクローナル抗体では、膵臓、甲状腺特異的なタンパク発現を検出することが出来なかった。そこで今回、抗原をERVE1アミノ酸配列由来の合成ペプチド(18アミノ酸)とし、新たにポリクローナル抗体を作製した。これら二種類のポリクローナル抗体を、免疫沈降法、ウエスタンブロット法に組合せ、さらに非特異的な検出を抑制する二次抗体、検出試薬を応用することで、ヒト各種組織由来細胞抽出液からのERVE1タンパクの検出を試みた。 今回も、信頼性を向上させるため糖鎖切断酵素処理を行い、予想されるシグナルを検出したところ、胎盤でのみ特異的なシグナルを確認することが出来た。ただ、得られたシグナルはコントロールとしたERVE1強制発現細胞のシグナルと、わずかなサイズのずれが認められている。この矛盾を解決するため、胎盤で確認されたシグナルに相当するバンドをアミノ酸解析により明らかにしようと考えた。そこで免疫沈降後のタンパク質を銀染色法で確認したが、免疫沈降法の際に用いた抗体の軽鎖にオーバーラップすることと、元々のタンパク量が銀染色法では検出できないくらいの量であることから、現段階ではアミノ酸解析を行うことは困難であることが明らかとなった。シグナルサイズの違いの解釈として、ERVE1タンパクに存在するシグナル配列が胎盤で特異的に切断されている可能性が考えられるが、現在のところその証明には至っていない。また、本来は膵臓、甲状腺に強く発現すると予想されるタンパクが胎盤でのみ確認されたことは再確認が必要であり、さらに各臓器の検体数を増やし検討する必要があると考える。
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