本研究では、申請者により作製されたRUNX3特異的抗体を用い、ヒト胃組織標本84例および肺組織標本115例を用い免疫組織化学的に発現解析をおこなった。ヒト正常胃粘膜においてRUNX3蛋白は主として主細胞、被覆上皮およびガストリン産生G細胞に発現し、腸上皮化生、腺腫および腺癌における発現が乏しいことを見いだした。一方、ヒト肺胞組織においてRUNX3蛋白はII型肺胞上皮に発現し、肺腺癌におけるRUNX3陽性細胞は、細気管支肺胞上皮(BAC)型に多く、非BAC型には発現していなかった。加えて肺腺癌症例を高発現例(RUNX3発現細胞が腺癌細胞の10%以上)と低発現例(同10%未満)に分類し比較した結果、低発現例は高発現例と比較し有意に予後が不良であることが示された(P=0.027)。 ヒト細胞に感染可能なRUNX3発現組換えアデノウイルスベクターを作製し、ヒト胃癌細胞株MKN-28に対する細胞増殖抑制効果を検討した。作製したベクターは、MKN-28に対し50MOI(multiplicity of infection)で高率な感染およびRUNX3蛋白の過剰発現を確認した。ウエスタンブロット法により、少なくとも感染72時間後までRUNX3蛋白発現は経時的に増加した。RUNX3発現ベクター導入MKN-28は、コントロールベクター導入MKN-28と比較しその増殖が抑制され、胃癌細胞に対しRUNX3蛋白発現が増殖抑制効果を示すことを示唆した。この効果を細胞周期停止およびアポトーシス誘導の両面から検索した結果、感染72時間後ではフローサイトメトリー解析にてG2/M期停止が示された。一方、DNAラダー形成およびヘキスト染色による形態学的解析では、アポトーシスは観察されなかった。RUNX3の過剰発現が誘導するG2/M期停止が、どの様なシグナル伝達により生じるのか、加えて肺癌細胞株における検討については、今後の課題とした。
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