C型肝炎ウィルス陽性の肝硬変・肝細胞癌の患者では肝移植後ほぼ全例において肝炎が再発すると報告されている。移植後特に早期では、急性細胞性拒絶と肝炎再発の病理組織像は類似していることも多く、鑑別困難な事が多いとされてきた。 平成16年度においては、C型肝炎ウィルスのRNAに対するIn situ PCR法の技術を確立した。慶應義塾大学病院において施行されたC型肝炎ウィルス陽性の生体肝移植例の移植後肝生検の標本を用いて、In situ PCR法を施行し、また線維化を見る特殊染色(Malloly染色、ElasticaVan Geeson染色)や筋線維芽細胞のマーカーであるsmooth muscle actin、胆管上皮のマーカーであるcytokeratin7を用いた免疫染色を行った。これらの染色方法と、臨床情報(HCV-RNA量など)を組み合わせて検討することは、急性細胞性拒絶もしくはC型肝炎の再発であるかどうかの組織学的鑑別に役に立つこ.とが、実際の臨床症例より証明された。 慶應義塾大学病院においては、C型肝炎ウィルス陽性の肝硬変・肝細胞癌に対する生体肝移植例が徐々に増加しているが、その中には予後の悪い例(Fibrosing cholestatic hepatitisを呈する例など)も存在する。過去の、早期にgraft failureに陥った症例におけるIn situ PCR法の詳細な検討などを通して、今後の肝移植例における急速な肝不全の進行を予防していくことが今後の課題と考えられる。 また、慶應義塾大学病院ではこれまで7例の小児原因不明劇症肝炎例を経験している。特に乳幼児の原因不明劇症肝炎例は予後が不良とされており、当院でも、生後4ヶ月で肝炎を発症し生体肝移植を行った症例は約4ヶ月後に肝不全で死亡となった。この症例は移植時摘出された肝臓において門脈の閉塞を一部に認め、剖検時の肝臓では慢性拒絶様の変化とともに肝静脈の閉塞を認めた。また生後1ヶ月で肝炎を発症した症例は移植時の摘出肝において肝静脈閉塞を認めた。この症例も含め、乳幼児の原因不明劇症肝炎による移植後の肝生検では、移植後数年が経過してからも、中心静脈周囲優位に出血や肝細胞変性を伴う中心静脈炎の症状が強く出る例が認められ、何らかの免疫学的異常が存在することが示唆される。免疫グロブリンの異常沈着の有無も含め、血管内皮障害をもたらす因子を現在検討中である
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