研究概要 |
本研究では難治性である膵癌を対象として腫瘍発生初期段階から進行癌に至る過程で腫瘍に対する宿主の免疫応答性の変化を検討し,さらにその変化を起こす機構を分子レベルで解析することで腫瘍免疫の機構ならびに腫瘍の免疫応答からの逃避機構の一端を解明することを目的としている. 国立がんセンター中央病院で1992-2003年に外科切除された膵管内乳頭状粘液腫瘍(IPMT)70症例を過形成,低異型性腺腫,中等度異型性腺腫,非浸潤性癌,微小浸潤癌,IPMT由来の浸潤性膵管癌に組織分類(WHO,日本膵癌学会規約に準拠)し,また通常型の浸潤性膵管癌64症例,非病変部膵組織および慢性膵炎を呈する膵組織を各22症例について,組織に浸潤している樹状細胞の浸潤形態・細胞数を観察した.その結果,樹状細胞浸潤を非病変部でほとんど認めないが,腫瘍性病変や炎症性変化部において認めた.IPMTの進展する膵管周囲間質にはCDla^+CD208^-未熟骨髄性樹状細胞浸潤が主として浸潤しているが,成熟樹状細胞や形質細胞様樹状細胞はほとんど認められない.腫瘍の各進行段階別に比較すると,腫瘍細胞が膵管内で明らかな悪性腫瘍となり,また間質への浸潤性が増すに連れて,腫瘍細胞に直接接する樹状細胞数が減少していくことが示唆された.またこれら病変部周囲の所属リンパ節はほとんどの症例で腫大していたが,リンパ節内の未熟樹状細胞に対する成熟樹状細胞の比率は膵管内腺腫において最も高い値となり,非浸潤癌で低値,浸潤性障管癌において最も低く,宿主免疫状態を反映していることが推測された. 腫瘍免疫に対しても抑制的に働くと推測されている制御性T細胞の動態を検討するために,制御生T細胞の機能発現のマスター遺伝子と考えられるFoxP3分子に対する抗血清および単クローン抗体を作成した.今後,上記多段階発癌過程の膵腫瘍を用いて制御性T細胞の浸潤様式の変化についても検討する.
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