我々は長寿モデル動物として、カロリー制限ラット(CRラット)およびアンチセンス成長ホルモン(GH)遺伝子を下垂体特異的に発現させGH-insulin-like growth factor (IGF)-1系を抑制したトランスジェニックラット(Tgラット)を保持している。これらの動物の特微として、glucose刺激時のinsulin分泌の減少にも関わらず正常な耐糖能を示した。このglucoseとinsulinの関連(glucose-insulin system)は老化・寿命の制御のみならず生体のglucose恒常性においても興味深い所見である。本研究課題ではこれらの長寿モデル動物の肝臓と骨格筋において、insulinシグナル伝達系を中心に比較検討した。 一晩絶食させたラット腹腔内にglucoseを投与後15分で採取した肝臓と骨格筋について、insulin receptorおよびその下流に位置するAktのリン酸化とタンパク質量について免疫沈降法およびウエスタンブロット法を用いて検索した。対照群である自由摂食させたラット(ALラット)では、glucose投与による血中insulin濃度の上昇に伴い、肝臓および骨格筋におけるinsulin receptorのリン酸化が上昇した。一方、CRラットや、Tgラットでは、リン酸化の上昇は検出されなかった。この時のinsulin receptorのタンパク質量に変化はなかった。またAktについて、対照群の肝臓と骨格筋ではinsulin receptorと同様に、glucose投与によりAktのリン酸化が上昇したが、CRラットやTgラットでは、リン酸化の上昇は検出されなかった。またAktタンパク質量に変化はなかった。さらに、上記肝臓において遺伝子発現について検索した結果、Aktの発現に変化はなかったが、insulin receptorの発現はTgラットで減少しており、PI-3 kinase p85αの発現はCRラットで上昇していた。また、肝臓におけるglucoseの取り込みにはたらき、insulin非依存性の制御を受けるGlut2に関してはCRラットでその発現が上昇していた。 以上の結果から、我々の2種類の長寿モデル動物は、特異的なinsulin非依存性の制御を受けるglucose恒常性機構の存在が示唆された。この機構の解明のため、リン酸化タンパク質に着目した解析を進めているところである。
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