研究概要 |
ペプチジルプロリルイソメラーゼPin1が癌治療のための分子標的として機能するかどうかを検定するため、元来Pin1の発現の高い2種類の前立腺がん細胞株PC3,LNCaPにPin1に特異的なsiRNAをレトロウイルスベクターを用いて定常的に発現させ、細胞増殖、浸潤転移能、血管形成能、ヌードマウス内での腫瘍形成能等について解析を行った。その結果、siRNAによるPin1発現抑制により細胞増殖、浸潤転移能、血管形成、コロニー形成能、ヌードマウス内での腫瘍形成能のすべてにおいて抑制が認められた。しかし、正常線維芽細胞ではPin1-siRNAによる増殖抑制は認められなかった。このことはPin1が細胞発癌だけではなく、細胞の悪性化の維持に直接寄与し、また、Pin1が癌治療における最適な分子標的である可能性を示唆するものである。次にPin1を分子プローブとして用いたリン酸化プロテオミクス解析を施行し、癌化又は悪性化に関わる責任分子の同定を行なった。具体的には前立腺癌組織および細胞株でPin1に特異的に結合するリン酸化タンパク質をGST-pull down法にて回収し、ESI-Q-TOF-MSを用いて結合タンパク質の同定をおこなった。その結果、前立腺癌で特異的にPin1に結合するリン酸化タンパク質を数十種類同定した。現在これらのタンパク質の前立腺癌における発現、リン酸化、および病態との関連にについて、培養細胞および臨床検体を用いて検討中である。また、Pin1が中心体の複製および染色体の安定性に関わるかどうかについて検討をおこなったところ、Pin1は細胞周期のG1-S期にかけて中心体に局在し、Pin1を正常線維芽細胞で過剰に発現させた状態で、細胞を薬剤でS期に停止させると、中心体の過剰複製が認められた。これらの細胞はその後の細胞分裂期において、染色体の不均衡分離を示し、継代を続けるに従って染色体数の異常を示すとともに、細胞のトランスフォーメーションが認められた。また、Pin1を乳腺特的に過剰発現するトランスジェニックマウスを作製したところ、乳腺の過形成、中心体の過剰複製を認め、後期には乳癌の発生が認められた。このことはPin1の過剰発現が中心体の過剰複製を引き起こし、結果的には染色体の不安定性を増強させることにより、細胞の癌化を導くことを示したものである。
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