研究概要 |
本研究では細胞死受容体のadaptor分子であるFas-associated death domain(FADD)の194 serineリン酸化がもたらす抗癌剤感受性獲得の分子メカニズムについて前立腺癌細胞を用いて解析した。[結果]ヒト前立腺癌細胞株であるLNCaP、DU145にpaclitaxelを処理するとG2/M cell cycle arrestを来し、内在するFADDは194 serineにおいてリン酸化され、同リン酸化は194 serineをalanineに置換したFADD(mutant FADD)の強発現によって阻害された。一方、paclitaxelとetoposide/cisplatinを組み合わせることで、etoposideやcisplatinによるapoptosis誘導効果が有意に促進されることを認めた。この現象にはMAP kinase経路における上流の遺伝子、MAP kinase kinase kinase 1(MEKK1)発現の上昇とその下流に位置するc-jun-NH_2 terminal kinase(JNK)の活性化促進が不可欠であることを見出した。興味深いことに、mutant FADDを強発現させてFADDリン酸化を遮断すると、paclitaxelによるMEKK1の発現上昇及びapoptosis誘導に対するsynergisticな効果が強く阻害されることが判明した。以上の結果は、FADDリン酸化に依存したMEKK1発現の上昇が、etoposideやcisplatin等の抗癌剤によるJNK活性化ならびにapoptosis誘導能を効率的に促進させることを意味し、FADDリン酸化がpaclitaxelによる抗癌剤のsynergistic効果に不可欠の現象であることがわかった(Carcinogenesis,2004)。次年度はFADDのリン酸化が前立腺癌細胞の増殖や浸潤性にどのような影響をもたらすのかについて、ヒト前立腺癌摘出標本を用いて検討する予定である。
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