本研究の目的は、1)前立腺癌細胞におけるFas-associated death domain(FADD)protein 194 serineリン酸化の調節機構ならびにその抗癌剤感受性に及ぼす影響を明らかにする、2)ヒト前立腺癌組織標本を用いて、FADPリン酸化の病理組織学的意義を明確にする、の2点である。1)については、FADDリン酸化を誘導させる薬剤であるpaclitaxelを用いた研究により、FADDリン酸化は、mitogen actuated protein (MAP) kinaseの一種であるc-jun NH2 terminal kinase(JNK)活性化により誘導され、etoposideやcisplatinをはじめ抗癌剤誘導性アポトーシスを促進させることやFADDリン酸化がJNKの上流であるMAP kinase kinase kinase(MEKK1)の発現および活性の上昇を来すことが明らかとなった。以上のことから、FADDリン酸化はJNKに関連したアポトーシス誘導シグナルにおいてpositive feedback loopを形成し、抗癌剤感受性を促進すると考えられた。2)については、ヒト前立腺癌組織標本(91症例)を用いて免疫組織学的検討を行った。その結果、正常な前立腺上皮細胞では、FADDが高度にリン酸化される一方、癌細胞ではFADDは有意に脱リン酸化され、リン酸化FADD陽性率とGleason score、PSA値、被膜外や精嚢への浸潤と統計学的に逆相関したことから、FADDの脱リン酸化は細胞増殖や浸潤能を高めると考えられた。1)、2)の結果から、ヒト前立腺癌においては、FADDリン酸化を誘導させることで、より効率的な化学療法が期待されるだけでなく、転移や再発を含む癌の進展を阻害できると考察された。また、FADDリン酸化の誘導剤として我々が同定したpaclitaxelは、臨床上頻用されており、本研究結果の臨床応用は十分可能であると思われた。
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