研究概要 |
ビタミンB_1が欠乏することにより生じる疾患としてWernicke-Korsakoff症候群が知られておりこの疾患は記憶障害、うつといった様々な中枢神経障害を示す。しかし、この疾患には明確な治療法が確立されていないことから、今回Wernicke-Korsakoff症候群の動物モデルを作製し、その動物が示すうつ行動に対する種々の薬物の効果について検討した。ビタミンB_1欠乏(Thiamine deficiency ; TD)食でマウスを飼育し、経日的にうつ行動をtail-suspension法により観察した際、飼育20日目においてTDマウスの無動時間がコントロール群に比べて有意に増加した。このことから、TDマウスがうつ様行動を示すことを明らかにした。このTD誘発性の無動時間増加はTD食飼育後期にビタミンB_1を投与しても無効であったことから非可逆的な神経変性が起きている可能性が示唆された。TD誘発性の無動時間増加は、三環系抗うつ薬であるイミプラミン、選択的なノルアドレナリン取り込み阻害薬であるマプロチリン及び選択的なセロトニン取り込み阻害薬であるフルボキサミンにより抑制された。さらに、最近サブスタンスP(SP)のアンタゴニストが抗うつ薬として開発されていることから、SPの受容体であるニューロキニン(NK)受容体サブタイプのNK-1,NK-2,NK-3のアンタゴニストの影響を検討した結果、イミプラミン、マプロチリン及びフルボキサミンと比較しNKのいずれのアンタゴニストも低用量でTD誘発性の無動時間増加を抑制したことから、TDによるうつ様症状には既存の抗うつ薬も有効であるがNKアンタゴニストがより重要な治療薬の一つとして考えられる。
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