研究概要 |
研究経過中にhTERT導入のみで不死化した気道上皮細胞が得られたため、分子細胞生物学的な性質を検討した結果、核型は49XY(+5,+9,+i20)で、p53遺伝子変異、p16発現消失を伴っていた。同細胞は、培地(defined-keratinocyte SFM, Invitrogen)の増殖因子添加物(EGF+KGF+insulin)および足場に依存的な増殖形式を示し、カルシウムイオン濃度1.8mMの培養条件下でE-cadherinによる上皮間結合を介したシート状の単層構築を形成した。以上、明らかな悪性形質を示さず、上皮構築形成能を保持した細胞であり、肺癌細胞の悪性化に伴う上皮構築異常(構造異型)の原因・機構を研究するうえで有用であると考え、同細胞に変異型k-rasV12の導入を行った。結果、1)細胞形態の紡錘状変化、2)増殖因子添加物非存在化でのコロニー形成、3)トランスウエルチャンバーアッセイにおける細胞移動活性の亢進、が観察されたが、4)軟寒天内でのコロニー形成はみられなかった。また、K-rasV12導入細胞は、5)カルシウムイオン濃度1.8mMの培養条件下(48時間観察)においてもE-cadherinを介した上皮間結合形成が不安定であり、培養皿上で盛んな運動性を示した。以上より、肺癌の発生・進展過程において、K-ras遺伝子変異は、肺癌細胞に増殖優位性や浸潤性増殖能を与えると同時に、構造異型を来す一因である可能性が示唆された。また、同不死化細胞に蛍光プローブを導入し上皮間結合形成過程における細胞膜リン脂質(PIP3(3,4,5))の局在を観察した結果、上皮間結合部位への集積を認め上皮構築形成への関与が示唆されたが、その生物学的意義や、K-rasV12の影響については16年度の研究においては明確にするに至らなかった。
|