吸血性昆虫・ダニは、宿主から迅速かつ効率よく吸血するために唾液腺中に様々な生理活性物質を備えている。マラリア媒介蚊であるハマダラカの唾液腺には、接触相の活性化を阻害することで発痛・炎症性物質であるブラジキニンの産生を強く抑制する蛋白質が含まれる。これまでに、サシガメやマダニにおいても分子構造の異なるブラジキニン産生抑制分子が唾液に大量に含まれることや、ハマダラカにはさらに別の類似活性分子が存在することも分かってきた。本研究では、これら唾液腺生理活性蛋白質が相互作用する標的分子上の相互作用部位を特定するとともに、新たに見出された3分子(ハマダラカ由来1種、ブラジルサシガメ由来2種)の接触相阻害の分子機構を詳細に解明し、その標的となる分子および相互作用部位を特定する。 本年度はまず、接触相阻害分子の標的となる分子の同定を行うために、生理活性分子の組換え蛋白質をバキュロウイルス発現系で作製し、高速液体クロマトグラフィーを用いて高純度に精製した。これら唾液腺活性分子と接触相因子との分子間相互作用について、生体分子相互作用解析機器(BIAcore)を用いて解析したところ、いずれの分子も血液凝固第XII因子および高分子キニノゲンに特異的に結合することが判明した。またこれらの結合には、亜鉛イオンが必須であり、その至適濃度はそれぞれの血漿蛋白質でかなり異なることが示唆された。次に各接触相阻害分子が、標的分子に対する特異的相互作用を介して、接触相を構成する具体的にどの反応経路を阻害するかを調べた。具体的には、独自に確立したin vitroおよび血管内皮細胞(HUVECs)上での接触相再構成系を活用し、各活性分子の阻害特性を生化学的に調べた。その結果、ほとんどの生理活性分子が標的となる2つの血漿蛋白質が活性化される複数の活性化経路を阻害することが明らかとなった。
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