研究課題
ブルセラ属菌は人獣共通感染症の一つであるブルセラ症の原因菌で、波状熱あるいは流産などの症状を惹起する。本菌は細胞内寄生菌であり、ファゴソームとリソソームの融合を阻止することによってマクロファージ内で増殖するものと考えられている。本研究では細胞内寄生菌の抗原性蛋白質として広く認知されているHsp60とPrPCの結合が、宿主細胞にどのような変化を引き起こすことによって細胞内寄生菌特有のファゴソームを形成するかそのメカニズムを解析する。ブルセラ菌の細胞侵入時にマクロファージの細胞質内に存在するLynのチロシンリン酸化が促進されることが認められた。Lynはチロシンリン酸化することによって他の分子と結合し、シグナル伝達を引き起こすことが知られている。また、菌の細胞侵入時におけるリピドラフトの形成およびHsp60とPrPCの結合を阻害することによってLynのチロシンリン酸化も阻害されることから、Hsp60とPrPCの結合によって引き起こされるシグナル伝達にLynが関与していることが推測された。そこで、菌の細胞侵入におけるLynを介したシグナル伝達を解析する為に、Lynがチロシンリン酸化することによってどのような分子と結合するか免疫沈降法など生化学的手法を用いて解析したところ、LynとクラスAスカベンジャーレセプター(SR-A)が結合することが認められた。さらに、Lynを介したシグナル伝達とリピドラフトの形成の関係を調べる為に、ブルセラ菌の野生株と細胞内増殖能を欠く変異株をマクロファージに感染させ、その感染細胞をTriton X-100で処理しショ糖密度勾配遠心法を用いて分画を行った。菌が感染していないマクロファージでは、細胞膜上に存在するLynとSR-Aはリピドラフト中に含まれないことが示された。B.aborusの野生株が感染した場合、LynとSR-Aはリピドラフト中に含まれその局在が変化することが認められた。LynおよびSR-Aを介した細胞内シグナル伝達機構は不明な点が多い。膜貫通型蛋白質として知られるSR-Aが菌の感染時にリピドラフト中に集積することから、細胞内へのシグナル伝達に何らかの役割を持つことが推測される。これらのことから、Hsp60とPrPCの結合がLynのチロシンリン酸化およびSR-Aのリピドラフトへの集積を促進し、SR-Aを介したシグナル伝達が菌の細胞侵入および細胞内増殖に重要な役割を果たしていることが推察された。
すべて 2004
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