前年度の研究で、緑膿菌の薬剤排出ポンプMexAB-OprMが、Quorum-sensingによる制御を受けていることを明らかにした。つまり、緑膿菌感染症の難治化の主原因である多剤耐性をQuorum-sensingの制御で行えることを示した。その一方でMexAB-OprMポンプは、Quorum-sensingの起動剤であるオートインデューサーの排出を行っている。ということは、逆にMexAB-OprMの発現調節を行うことは、毒性の変化や緑膿菌感染症のもう一つの問題点であるBiofilmの熟成に変化を与えることが可能であると考えられる。そこで、MexAB-OprMの発現とバイオフィルムの形成との関係について明らかにすることとした。まず、Biofilmのflowcell系での作成法を確立し、バイオフィルムの作製を顕微鏡観察できるよう、蛍光タンパク質のGFPを緑膿菌に導入し、その発現に成功し、最も効率的にバイオフィルムの観察が行える最適発現条件を設定した。次に、mexAB-OprM遺伝子を人為的に破壊し、その株を用いて、Biofilmの熟成の経過を検討した。その結果、炭素源としてクエン酸ナトリウムを用いた場合、野生株では緑膿菌でよく観察されるマッシュルーム状のバイオフィルムが観察されたが、MexAB-oprMを破壊した変異株ではそのような構造体を形成しないばかりか、バイオフィルム自体の厚さが野生株と比較して薄くなることを明らかにした。更に、バイオフィルムの強度を界面活性剤の一種であるSDSでの剥離時間で計測したところ、野生株では1時間の試験でも剥離されなかったのに対し、変異株では5分も経過しない内に剥離することを明らかにした。このことから、MexAB-OprMポンプは、バイオフィルムの形成とその付着強度に強く関わっていることを世界で初めて突き止めることができた。
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