研究概要 |
肺炎クラミジアはヒト肺炎の起炎菌であり、近年動脈硬化症との関連で注目されている。本菌は封入体内で増殖する偏性細胞内寄生性細菌で独特の生活環を持ち、その形態には感染性で非増殖性の基本小体(EB)と増殖性で非感染性の網様体(RB)がある。生活環の分子メカニズムには不明な点が多く、これを明らかにするために我々は同菌のDNAマイクロアレイを作製し、その遺伝子発現を網羅的に解析することを試みた。 DNAマイクロアレイとRT-PCRの結果から、感染後期に発現上昇する約20遺伝子を同定した。そのうちhimD, set遺伝子の遺伝子産物はそれぞれ大腸菌と真核生物の染色体の構造に関与することから、クラミジアにおいても直接または間接にRBからEBへの変換に関わっている可能性が考えられる。またDNAマイクロアレイの結果から、ゲノム上での発現の偏りがあり、感染後の時間経過とともに変化していることが示唆された。(投稿準備中) さらに感染細胞の免疫染色からSETタンパク質は封入体に一致することがわかり、酵母two-hybrid系を用いた解析からSETタンパク質とクラミジアのヒストン様タンパク質Hc1、Hc2が相互作用することが示唆された。これらの結果から、真核生物と同様にクラミジアSETタンパク質にもhistonemethyl-transferase(HMT)活性があることが期待され、実際にin vitroでその活性が確認された(投稿準備中)。 クラミジアのIncファミリーは封入体膜に局在する機能未知のタンパク質である。肺炎クラミジアのincA2をHeLa細胞に導入・発現させたところ、IncA2の局在はミトコンドリアに一致した。同遺伝子導入細胞は、staurosporine(STS)やTNF-αによるアポトーシスが誘導されやすいことがわかった。このときCaspase-3活性が上昇していた一方で、IncA2はSTSによるチトクロームCの遊離を促進しなかった。以上の結果からIncA2はアポトーシスに関わるSmacなど他の因子に働く可能性が考えられる(投稿中)。
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