2D DIGEシステムを用いたLegionella pneumophilaの増殖相の違いにより変動する蛋白質発現の差異解析において、本年度は特に仮想蛋白質(hypothetical protein)に着目した。MALDI-TOF MSにて蛋白質を解析したところ、同定できた蛋白質80個中、11個が対数増殖後期に発現が増大する仮想蛋白質として同定された。これら蛋白質をコードする遺伝子プローブを使用して、L. pneumophila、L. bozemanii、L. micdadei、L. dumoffii、L. brunensis、L. gratianaのゲノミックサザンブロットを行ったところ、8個に関して、そのコードする遺伝子がレジオネラ症の主要病原菌種であるL. pneumophilaのみに特異的に存在することが明らかとなった。これら8個の仮想蛋白質には、膜蛋白質と細胞骨格のリンカー蛋白質として知られるアンキリン等に保存されるリピート配列(アンキリンリピート)を有する真核細胞類似蛋白質、Neisseria meningitidesに存在する仮想蛋白質と相同性を持つもの、又、最近エフェクターVipAと同定されたものなど、菌の感染性制御への関与が推測される蛋白質が含まれていた。また、中でも細胞内寄生菌であるCoxiella burnetii及びFransicella tularensisに存在する仮想蛋白質CBU0952及びFTT0975に相同性を持つ分子量26kDaの仮想蛋白質(p26)は、蛋白質二次構造プログラムSOSUIによって、2回膜貫通型蛋白質であることが予測され、また、protein-protein blastにより、CBUO952及びFTTO975との相同部位が、共にC末端側の特徴的な幅広い親水性領域にあることがわかり、この部位が菌の細胞内寄生性状に何らかの機能を果たしている蛋白質である可能性が推測された。p26に関して、カナマイシン耐性カセットaphA-3を用いた遺伝子挿入不活化変異株NM101を作製し、ヒトマクロファージ様細胞U937及び自由生活アメーバAcanthamoeba polyphaga感染における宿主細胞毒性・細胞内増殖性を調べたところ、NM101は野生株と比較してそれらの顕著な低下を示さなかった。このことは、L. pneumophilaが独自の細胞内寄生機構を保持するよう進化した事を示すのかもしれない。現在残り7つの仮想蛋白質についても、遺伝子変異株を作製し、L. pneumophilaの感染制御因子であるかどうかを精査している。
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